時の回廊

香川県
2022
新設の硝子茶室「聞鳥庵」に臨むカフェラウンジの改修にあたっては、極力安藤建築のディーテールを保全した上で、その空間に置かれる家具の彫刻化に挑みたいと思います。

まず私が最近発見した3種類の特殊な樹の説明をいたします。


神代杉の根方
神代杉は縄文杉とも呼ばれる樹木の半化石化したものを指します。この神代杉は紀元前466年に東北の活火山「鳥海山」が大爆発し、その時の地震によって大規模な山体崩壊が起こり、原生林の大木の一つだったこの巨大杉が地中に埋もれて眠ること2400年あまり、最近になって発掘されたものです。埋没時の樹齢を1600年と推定すると4000年前に発芽した杉ということになります。まさに神代の時代に生をうけたのです。

屋久杉の幹
過酷な環境で育った屋久杉は大木が多く、樹齢1000年以上の樹が屋久杉と呼ばれます。近年世界自然遺産に登録され伐採は禁止されました。この屋久杉は樹齢1500年程、大分以前に伐採されたもので樹齢により内部が空洞化したものです。

栃の樹の側
栃木県の名の由来となる栃の樹はこの地方で伐採され樹齢は推定600年。白く波打つ木肌が美しい。


この3種の樹木は様々な鳥の声を聴きながら時を渡ってきたに違いありません。神代杉の4000年、屋久杉の1500年、栃の樹の600年、そして今、ここに杉本ギャラリーカフェラウンジにおける彫刻テーブルとして、時間の経過そのものを体現するのです。「時の回廊」では、時間を遡る感覚を体感できるのです。巨木は我が国において、神の依代として信仰の対象になってきました。神代杉は縄文人によって、屋久杉は弥生人によって、栃の木は室町期の人々によって拝まれていたのだと思います。私はこの樹々達を「三種の神樹」と名付けました。

杉本博司