茶洒 金田中

東京
2013
老舗料亭「金田中」の食を提供する場所として、またアート空間として、表参道のコンテクストを読み解くなかで、喧騒から離れた静寂を生み出すことを考えた。エントランスには、三次関数の数式を立体化した、まさに御神体ともいうべき巨大な数理模型を配置し、神聖な場所あるいは結界空間として店舗専用のアプローチを演出している。その空間を回遊し階段を上がると、苔の中に景石を配した庭とインテリアの全景が人々を迎えてくれる。

今回の我々の設計においてもっとも特徴的な空間の構成は、庭との関係である。庭と店内の関係は、舞台と観客席のように見立てられており、長さ9.2メートルの1本のカナダ産檜柾目無垢材を庭に向かって雛壇状に2列配置し、大開口が可能な引戸を開放すれば内外が一体的な空間となる。庭は大ぶりな鉄平石を使用し、一石ごとに表情を確認しながら乱積みとした。

また、個室の開口部からはアプローチに出現した巨大な数理模型「究竟頂」を間近で眺めることができる。同様に椅子についても数理模型から引用した形態として、随所に杉本博司の空間への取り組みを垣間見ることができる。

近代建築以降連綿とつづくディテールのなかに、黒文字垣、苔、へぎ戸や敷瓦など数寄屋の構成要素を配置して、時間により刻々と変化する庭は、《茶洒 金田中》におけるもっとも象徴的な場所であり、日本的な空間の作法を引用しながら、都市のなかにおける静寂を際立たせている。

榊田倫之