小田垣商店
兵庫県
2021
時代を還る建築
篠山城を中心とした城下町である丹波篠山市東部に位置する河原町妻入商家群に近接して、創業1734年の黒豆卸店である小田垣商店の建築群が並んでいる。江戸後期から大正初期にかけて建築された大小10棟の建築群によって形成されており、2007年には国の登録有形文化財に登録されている。改修した建物は、そのうちの5棟でもっとも古い江戸後期の建屋を含んでいる。商家の建物としてその優美さを誇った建築群の完成期である大正期に思いを馳せて、商家特有の小屋組や旧来の工法に習い、同時に必要と思われる耐震性を確保した。そして建物そのものを文化的資源と考え、近代化によって、あるいは道具としての活用によって取り付けられた雑物を取り除くことから始まり、空間構成や仕上げにおいても時間を巻き戻してゆくように、「時代を還る建築」として向き合い再構成を成し遂げたのである。
床は、京都の町家で使われていた町家石で敷き詰めた。京都の町家では、瀬戸内海周辺からとれるやや赤みがかった花崗岩の錆石が好まれる。実際に使用されていた町家石は、相続などよって土地が分割化されて敷地そのものが小さくなり、また集合住宅の建設などによって新材の石へ移り変わり、町家石は廃材として、銘石の墓場ともいうべき広大な場所で眠っていた。改めてこの大きな商家の土間に敷き並べるとき、その微妙に産地や時代の異なる石を敷き並べると、色味が混ざり合いなんともいえない優しい床の景色となるのである。また黒豆の量り売りや商品のディスプレイをするために空間の中心には、かつて庭園に使われていた棗型の手水鉢を据えた。求められた機能に対して空間を再構成しながらも、素材の選定においては蓄積された時間と対話を重ねながら、可能な限りその時間に耐えられる強度を持った素材を見立てることを心がけている。
今回の第1期工事を終え、第4期工事に渡って全棟を改修する計画であり、様式的な文脈に習い登録有形文化財としての価値を保ちながらも活用し、未来に残すべきものとして地域貢献をはかる、まさにその第一歩を踏み出したところである。
榊田 倫之