MOA美術館

静岡県
2017
至高の光り 至高の場

私は《MOA美術館》にある数々の日本文化の至宝を、その最高の光りと場で見てみたいと思った。足利義政が慈照寺《東求堂》で見た光り、小堀遠州が《桂離宮》で見た光り。そうした前近代の光りを美術館の内部に実現するために、私は前近代の素材にこだわった。それは、屋久杉であり、黒漆喰であり、畳だった。美術館という近代装置の内に前近代を見せるという使命を、私は自身に課したのだ。難題解決の試行錯誤の果てに、私は最先端の光学技術を舞台裏に忍び込ませることに成功した。

私のなかではもっとも古いものが、もっとも新しいものに変わるのだ。

私は文明の起源に、長いあいだ思いを馳せてきた。人類はすばらしい宝物たちをその手でつくりつづけてきた。しかしふと気が付くと、私たちにはいま、昔のような名品がつくれるだろうかと私は訝る。はたして現代美術は千年後に国宝になり得るだろうか。芸術に関する限り、私は時代が進化しているのか、衰微しているのかを測りかねている。

しかし私は一縷の光明を見た。室町時代の美意識を体現する手法のひとつに漆がある。その中世的美の伝統は、人間国宝、室瀬和美氏の手に遺されていたのだ。私は室瀬氏に美術館の扉制作をお願いした。それはマーク・ロスコの絵画にも似て、東大寺に伝来する中世の根来盆にも似て、そのどちらでもないものだ。現代に生きる人々を前近代へと誘うための門扉としてふさわしい色と艶が匂い立ち、人々はその前で居住まいを正し、気を引き締めることになる。

杉本博司