葉山灯堂

神奈川県
2022
森戸海岸と葉山マリーナの間に位置する海沿いの敷地では、波の音がすぐそこから聞こえ、水平に広がる相模湾、江ノ島の背景には富士山を望むことができる。夕暮れ時には、海に沈む太陽の日差しが背景に聳える山を明るく照らす。海辺には三浦半島を横断する葉山層群の岩肌が隆起している景色と漁師小屋。白浜が続く海水浴場からは一線を画し、長年続けてきた人々の営みが見えてくる。

この地に旗艦店を構えるのは、海をテーマとしてライフスタイルを提案するアパレルブランドの45Rである。敷地脇の路地から山側には、清浄寺(しょうじょうじ)の本殿が見えることから、海につながる計画地までの路地を参道と見立て、海から見たときに建物がさながら寺院の一部と感じるように御堂の形をイメージした。12角錐の屋根の頂部には塔状のトップライトを設け、日中は内部空間に移ろう日時計の役割として、夕刻には海にあかりを燈す灯台として、印象的な形体はランドマークとして機能している。このように場所のコンテクストを読み解く中で建築のあり方を導き出したことから、我々はこの建築を「葉山灯堂(はやまとうどう)」と名付けることにした。12角形に構成された内部には、桁から上部の垂木が頂部のトップライトに向かって傾斜して登っている。トップライトに集合した垂木の力が均衡して総持ちとなり、屋根を支え、無柱空間を実現している。また桁から下部には、海の水平線が感じられるように広く開口部を設けた。構造は木造で、構造材や桁、垂木、造作等のすべての木材は千葉県山武市を産地とした山武杉(さんぶすぎ)を採用した。工事着手の一年前には丸太で材料を買い求め、乾燥から木取り、製材まですべてに関わった。一般的な杉よりも赤みが深く、松のように堅い山武杉は、環境の厳しい海沿いにこそふさわしい。昨今では外材をプレカットして軸組とすることが一般的であるが、国産材の魅力にあらためて触れ、山を持続可能にしてゆく林業の重要性を 再度痛感している。その他にも廃材の石を再利用したり、古びた船板をカウンターの天板として蘇らせるなど、随所にアップサイクルを試みている。

建築は環境の一部である。日本の風土に合った建築を考え、地域や場所の文脈を紐解いていくことが極めて重要であると思う。また同時に日本の杉を自ら選び、有能な大工と共に木取りや仕口の取り合いについて語り合う。元来当たり前の事ではあるが、現代建築の多様性や合理化によって、少なくなってしまった大工がつくっていたかつての日本建築にあるような機会に触れることに、この上ない喜びを感じるのである。

榊田 倫之