清春芸術村 ゲストハウス「和心」
山梨県
2019
南アルプス北端の甲斐駒ヶ岳を望む敷地に建つゲストハウスは、文化複合施設である清春芸術村に隣接しており、老桜に囲まれた芸術村を背景にして、銅板葺と板葺で構成した約300平方メートルの寄棟屋根が敷地をおおっている。刀刃を施した庇の先端は鋭く、銅板金のコーナーは蛤葺、風情を醸し出すように粗めの米杉を葺いて棟木が通っている。屋根の銅板と米杉は時間とともに美しく枯れ、環境に溶け込んでゆく。北側のアプローチ空間は大和塀と石垣に沿って苔庭の露地空間になっており、石敷きの延段から軒下の玄関へと来訪者を迎え入れる。
庭との関係を強く意識したことにより、柱は細く屋根が浮遊しているかのように軽やかな印象で、数寄屋大工の技量によって表現された木部と現代的な手法が共存している。開口部の角柱を除くなど真壁の木造数寄屋では困難な表現をするために、主要構造は鉄骨造とし、鉛直力を外周の直径50ミリメートルの鋼製無垢柱で支持して、水平力は内外を仕切る最低限の壁で負担している。大きな屋根坪に対し内部空間は115平方メートルほどで構成されており、庭と現代美術を鑑賞するためのギャラリーと1ベッドルームのみで宿泊できる最低限の機能とした。
回廊的な半外部の軒先空間が内外の領域を曖昧に分け、庭には福島県産の滝根石の巨石を景石として配置し、亀甲文様が特徴である相木石を用いて弧を描いた石垣を庭の境界としている。単純な平面構成と現代的で明快な構造形式を採用していると言えるが、同時に素材が本来もっている自然美を尊重し、建物を取り囲む清春の自然との調和を図っている。
榊田倫之